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臨床経絡

「経穴ゲートスイッチ理論」に基づいた臨床現場で役立つ経絡治療の紹介

沢山の東洋医学の理論があり、それを学校で学びますがどのように運用するかまでは教えてくれません。「経穴ゲートスイッチ理論」を理解すれば知識が臨床に活かせるようになります。

ここでは「入門」「症例集」「臨床ひろば」「異論な医論」の4つのテーマに分けて紹介しています。

臨床ひろば

選穴は宝探し

「経穴ゲートスイッチ理論」を運用することの一番の特徴は普通の技術の鍼灸師が最初の一鍼で相当の効果をあげることができる方法のひとつだということです。そこに鍼を刺す技術に関しては名人芸は要りません。ただし病証を弁別するちから取穴のちから流注の把握はよく磨いたほうがより効果的な治療を行えます。特に問診は大切です。

比較的病が浅い場合は初めの一本の鍼で症状が軽減したり消失したりします。実際の臨床現場では何本も刺してやっとこれだけなんていうのもありますが一鍼でここまでやれるというチャンスも少なからずあります。そのチャンスをみすみす逃す手はありません。「経穴ゲートスイッチ理論」はそんな時チャンスを逃しません。

まず問診によって病症がどの経絡から由来しているのかが解ります。その判断には流注をよく把握していることが役立ちます。次にその由来する経絡に影響を及ぼす経穴の中でどれを選ぶかを判断します。この判断にはその臨床家のセンスや経験などが活かされます。

私はこの選穴を「宝探し」と思っています。

それはどの経穴を使うかで一鍼目の効果が全然違うからです。やはり効果が大きい方が患者さんからの評価も違ってきますから経穴選びはとても大切です。

鍼治療の可能性(Part1)

鍼という道具の役割を説明するとき多くの経絡治療家は「気血の調整を行うため」の道具であると言います。そして彼らは患者さんに不足している気があればそれを術者が刺鍼技術によって気を外から注入(補う)することが出来ると言います。私も経絡治療を学び始めてしばらくはその説明を鵜呑みにして信じていました。しかし臨床を重ねるにつれどうもそうではないのではないかと感じるようになりました。

そう感じるようになった理由は10年も20年も切磋琢磨して刺鍼技術を磨いた先輩方がそれほど驚くような結果を導き出せていない事実。反面大して学術ともに磨いているとは言えない鍼灸師であっても時と場合によっては素晴らしい成績をあげたりする事実。

経絡治療の大家として知られる井上恵理先生の言葉だったと思いますが「鍼は効きすぎて困る」と言われたことがあります。その意は鍼の効果を喜んでではなく「あまり学術を磨いていない者でも時として素晴らしい臨床成績を上げることがあるのでそれを良いことにして切磋琢磨しないものが多すぎる」と一部の鍼灸師の怠慢を嘆いた言葉でした。

この話でも判るように刺鍼技術がそれほどでもなくても鍼の効果が出るということは鍼の効果を得るための条件に刺鍼技術が必ずしも必須ではないということを現していると思っています。

現在、私は鍼治療で患者さんのからだの外から気を送り込んだりすることは平凡な鍼灸師には到底出来ないと思っています。

ではどのような時に鍼の効果が得られるのかと言えば「効果の出る経穴を選ぶ」「選んだ経穴に的確に刺鍼する。外さない」ことが必須条件だと思っています。

そうすることによって私の言う「自動調節機能」が働き「経穴ゲートスイッチ理論」「補瀉論」「気論」で説明するように「足りないところに自動的に足りているところや調整湖(奇経)から気が流れ込み」または「有り余っているところから足りないところや調整湖(奇経)に不要な気を誘導する」という反応が起こって体全体のバランスをとっていると思っています。

使うスイッチ(経穴)は1箇所で済む場合もあれば複数のスイッチを使う場合もあります。

この方法をとれば無駄な鍼を減らすことが出来ます。.一般的な経絡治療では本治法を一番重要だと考えていますがそれに拘り過ぎて唯の一鍼で済む症例のドラマチックな場面をみすみす逃してしまっています。

鍼のふたつの働き

鍼の作用には大きく分けて二つの働きがあると考えています。

ひとつは「経穴ゲートスイッチ理論」で言うところの「スイッチ」の役目です。スイッチですから症状が発現している部位以外にも選択すべき経穴は沢山存在します。

もうひとつは傷ついた部位が充分治癒しないまま慢性的な状態になってしまったところの近くに鍼を刺すことで意図的に少し組織を傷つけて衰えた再生機能を賦活させるという作用です。

傷つけるというと治療目的に反するようですが鍼の太さは0.14mm~0.20mmくらい(毛髮の太さ:0.05mm~0.15mm)なので傷つけると言っても微小な傷です。微小ですが傷ついたのは事実ですから改めて「自動調整機能」が働きます。新しい傷の修復が始まることで充分修復しないまま「自動調整力」が活かせなくなっていた部位もつられてその機能が働き始め治癒を促すきっかけになると考えています。

脈差診と脈状診の違い

厳密に評価すればどちらも大切だが臨床でより役に立つのは脈状診です。

脈差診に重きを置くのは「難経」の六十九難を診察治療の中心にしている経絡治療家に多いのですがこのての経絡治療は「間違いは少ないが時として回り道の多い」治療法です。最初の一穴で勝負が決まるようなチャンスでも本治法と称して通り一遍の選穴をしてしまいます。おまけに選穴する経穴の種類も限られていて柔軟性がなく幅がありません。驚くことにその選択肢に「宝探しの宝に値する経穴」が無い場合も多いのです。ただし診立てが間違っていなければドラマチックな展開は少ないが「自動調整機能」によってそのうち何とか治ってきますから継続治療を求める患者さんが多ければ経営は成り立ちます。

この治療法を長年続けている治療家にはまじめで素直な人が多いと思います。私がお世話になった研究会の先生方が全く真面目な方ばかりで素早く治せないのは自分の技術のせいだと思い込んでおられました。その研究会では成果が出ないのは自分の技術が未熟なせいだと思えないひとはサッサと辞めていきましたが私はそれほど素直ではないのですが優柔不断なので悪くはないが何か物足りないと思いつつも20年も付き合ってしまいました。

当時は研究会で自分の説をあまりストレートに披露すると今までお世話になった先生方の自己研鑽の努力に水を差すような気がしていましたので遠慮していましたが自分の説に確信がつけばつくほど誤魔化しが利かなくなってきたので10年ほど前に会を離れることにしました。

それからは「経穴ゲートスイッチ理論」「補瀉論」「気論」を基に治療を組み立ててきましたから六十九難にほとんど頼らなくなりました。その結果、脈差診の必要性が大幅に減りましたがその分脈状診には細心の注意を払うようになりました。

技術的に難しいのは何と言っても脈状診です。脈差診は簡単で初心者でも私の唱える「簡易脈診法」を1日指導受ければできるようになります。乱暴に言えば脈差診はしなくても問診をしっかりすればどの経絡の病症かはは判断できます。

また難しいとは言っても脈状診も毎日研鑚していると診えないものも診えてくるようになります。もし急ぐなら間違いない早道は私と同じように研究会の門を叩いて4・5年研鑚するとよいと思います。まじめにやっている研究会で5年も勉強すれば診えてくるようになります。

脈状診は患者さんの体質・病状・治療の可否など色々なことがそこから判断できますから深めれば深めるほどより役立ちます。仕舞いには脈診をしないと安心できなくなってしまうくらい得られる情報は多いと思います。

宝探しのコツ…流注を知ること…

はじめに


 鍼灸の臨床において特定の病症に対して著効を示す特定の治療点を特効穴という訳ですが、臨床現場において、はたして特効穴と言われる治療点が実際にはどれほど効果があるのか疑念を抱いた経験がある臨床家も少なくはないのではないかと思います。要するにひとが言うほど著功を示さない場合がままあるということです。そこで、それぞれが特効穴と言われながらもその効果にばらつきがあるのは何故かまたそのばらつきを少なくするにはどうしたら良いかについて以下で喉の痛み(扁桃腺炎を含む)の治療を例にとって考察してみたいと思います。 

喉痛の特効穴(便宜上特効穴としましたが以下の中には単に治療点として取り上げてあるものも含んでいます)と言ってもポピュラーな文献や伝承から拾い出すだけでも数十の治療点が挙げられるのです。現実の問題としてこれらすべての治療点を1回の治療で施術していたらいわゆる特効穴の意味をなしません。特効穴は数少ない取穴によって著効を示してこそ特効穴であり何十穴も取穴していたのではどれがその効果に貢献したかは定かではなくなるはずです。「下手な鉄砲も数撃ちや当たる」です。それは臨床家としてはあまり体裁の良いものではありません。それにしても臨床家は特効穴を欲しがります。それは患者を少しでも早く救いたいという気持ちの現われが一番の理由でしょうが著効を示したときのドラマチックな展開が術者にとってもまた快感であるからでもあるでしょう。はたまた、それを経験した患者の評価によって術者のグレードが上がることの営業的な打算もあるでしょうか。とにかく、臨床家は特効穴を欲しがる傾向にあります。私自身は本来の臨床は地道な治療の積み重ねによって良い結果をもたらすことの方が多いと信じています。しかし、何れにしても特効穴を適切に選択することによって速やかに病症に改善をもたらすことができたならば術者にとっても患者にとっても有益なことに違いありません。

 喉の痛みも色々ありますが例えば扁桃炎は扁桃輸のいずれかの扁桃に細菌などが感染し炎症を起こしたものを言い抗生物質や消炎剤、鎮痛解熱剤はたまたステロイドなどを投与するのが一般的な西洋医学の治療法です。もし重篤な嘸下困難があれば輸液を目的とした入院治療が必要で長いときは一週間も入院治療が必要な場合もあります。

 鍼灸では自然治癒力を高めるように働きかけることで扁桃の炎症を寛解させることができます。東洋医学では古来喉の痛みや扁桃炎の特効穴と言われる経穴は沢山ありますが、いつも同じ経穴では旨くいかないことが多いのです。これは扁桃で言えば厳密には口蓋扁桃、舌扁桃、耳管扁桃、咽頭扁桃によって扁桃輸を形成しそれぞれの扁桃を複数の経絡が交通している為と考えられます。つまり一言で喉と言ってもその部位によって経絡的にみればそれぞれ異なる経絡によって影響されているので、炎症を起こしている部位がどの経絡に影響されているかによって旨くいったりいかなかったりするのだと想像できます。従って経絡の流注を正確に把握して、その部位の炎症がどの経絡変動によって起こっているのかを正しく弁証しなければより短い時間で確実に治癒に導くことは難しいことになります。


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流注と特効穴について


 喉の周囲を循っている経絡は霊枢によれば次のようになり、全ての経絡が関わっているのがわかります。治療穴を求める時にどの経絡に由来するかをよく見極めなければなりませんが流注をよく把握しておけば問診の情報だけでもかなり正確に求める経絡を見出すことが出来ます。診脈力が無くても経絡治療は矛盾無くできるものがほとんどです。よく問診をしましょう。特効穴としてよくとりあげられている経穴も併せて挙げておきます。

1) 手の太陰肺経

 流注)

  「‥‥膈を上って肺に属し、肺系より横に腋下に出で‥‥」<経脈篇>

  「‥‥上って缺盆に出で、喉嚨を循り‥‥」<経別篇>

  *肺系というのは肺のつり糸つまり喉から気管にかけてのことと解釈される

   喉嚨とはのど・気管・声帯のこと

   肺は鼻に開窮するので咽頭扁桃とかかわると思われる

 経穴)

  少商穴:井木穴。ノドの腫れ。血絡を認めるとき。病証が風寒の外邪によるとき。

  魚際穴:栄火穴。ノドの乾くとき。経筋の結ぼれで血絡を認めるとき。

  太淵穴:兪土原穴。ノドの乾くとき

  経渠穴:経金穴

  列缺穴:絡穴。奇経八脈の任脈で奇経八総穴の一つ。陰蹻脈の照海穴と組み合わせる場合も多い。ただし奇経八脈の選穴の場合一番病証と合うものを取ることが大切であるから列缺穴とは限らない。病証が風寒の外邪によるとき。ノドの病一般

  孔最穴:郄穴。

  尺沢穴:合水穴

2) 手の陽明大腸経

 流注)

  「‥‥肺に属し、上って喉ロウを循り‥‥」<経別篇>

 経穴)

  二間穴:栄水穴

  三間穴:兪木穴

  合谷穴:原穴。病証が風寒の外邪によるとき

  陽谿穴:経火穴

  曲池穴:合土穴

3) 手の少陰心経

 流注)

  「‥‥心系より上って咽を挟み‥‥」<経脈篇>

  「‥‥上って喉 に走り‥‥」<経別篇>

   *咽はノドで口をあけて見えないところのことで、扁桃でいえば舌扁桃の辺りになる

 経穴)

  少府穴:栄火穴

  神門穴:兪土原穴

  霊道穴:経金穴

4) 手の太陽小腸経

 流注)

  「‥‥心を絡い咽を循り‥‥」<経脈篇>

 経穴)

  少沢穴:井金穴

  前谷穴:栄水穴

  後谿穴:兪木穴。奇経八脈の督脈で奇経八総穴の一つ。手の太陽小腸経は大椎穴で督脈と交会している。大椎穴も有効な治療穴である

5) 手の厥陰心包経

 流注)

  「‥‥別れて三焦に属し、出でて喉 を循り‥‥」<経別篇>

 経穴)

  労宮穴:栄火穴

6) 手の少陽三焦経

 流注)

  明記されてはないが経脈篇の病証の段に「‥‥嗌腫れ、喉痺す‥‥」とある。

  *嗌はノドで口をあけて見えるところのことで、扁桃でいえば口蓋扁桃の辺りと思われる

 経穴)

  液門穴:栄水穴

  中渚穴:兪木穴

  外関穴:絡穴。奇経八脈の陽維脈で奇経八総穴の一つ

  翳風穴:血絡を見ることがある

7) 足の太陰脾経

 流注)

  「‥‥膈を上って咽を挟み、舌本に連り、舌下に散る‥‥」<経脈篇>

  「‥‥上って咽に結び‥‥」<経別篇>

   *咽や舌本であるから舌扁桃の辺りと考えられる

 経穴)

  隠白穴:井木穴

  商丘穴:経金穴

  公孫穴:絡穴。奇経八脈の衝脈で奇経八総穴の一つ

8) 足の陽明胃経

 流注)

  「‥‥大迎の前より人迎を下り喉 を循り‥‥」<経脈篇>

  「‥‥上って咽を循り口に出づ‥‥」<経別篇>

  *扁桃炎に足の陽明胃経が関わっていると大迎穴や人迎穴付近に血絡をみることが多い

 経穴)

  厲兌穴:井金穴

  陥谷穴:兪木穴

  梁丘穴:郄穴

9) 足の少陰腎経

 流注)

  「‥‥肺中に入り喉 を循り、舌本を挟む‥‥」<経脈篇>

  「‥‥直なるものは、舌本にかかわり‥‥」<経別篇>

 経穴)

  然谷穴:栄火穴

  太谿穴:兪土原穴

  照海穴:奇経八脈の陰蹻脈で奇経八総穴の一つ

10) 足の太陽膀胱経

 流注)

  直接の流注はない。経別篇の腎経の流注に於いて「‥‥ふたたび項に出で、太陽に合す‥‥」とある。また子午関係に於いて肺経とかかわり、奇経八脈に於いては陽蹻脈と督脈に於ける関係によって喉と関わりを持っている

 経穴)

  申脈穴:奇経八脈の陽蹻脈で奇経八総穴の一つ

11)足の厥陰肝経

 流注)

 「…嚨の後を循り、上って頏顙に入り、目系に連なり‥‥」<経脈篇>

*頏顙とは咽頭と後鼻孔のつながるあたりのことであるから咽頭扁桃、耳管扁桃と関わると思われる

 経穴)

  行間穴:栄火穴

12)足の少陽胆経

 流注)

  「‥‥心を貫き以て上って咽を挟み頤頷中に出で面に散じて‥‥」<経別篇>

   *頤頷中とは下顎と上顎の間のことで足の少陽胆経が関わる扁桃炎のとき血絡がよくみられる

経穴)

  臨泣穴:兪木穴。奇経八脈の帯脈で奇経八総穴の一つ

 以上が扁桃輪を交通する経絡流注と扁桃炎の治療に好しとされる特効穴のおおよそのところですが、ここに挙げなかった井穴や督脈や任脈などにも特効穴となりうる経穴があります。どちらにしても十四経絡全てが扁桃と何らかの関わりを持っているのですから眼の前にした扁桃炎がどの経絡変動に起因しているかを弁別する必要があります。そのためには病証診断が非常に有効な手がかりとなります。また喉の病症は経絡変動が起こってその病証がたまたま扁桃にかかわっているだけですから、ただ単に扁桃を攻めることに終始せず経絡変動を是正しなければなりません。そうすることによって自動調整能力(免疫力)が高まり迅速に緩解治癒へ導けると思います。



参考)


「喉は肺に通じて、気の往来を主どる。気、欝結して、上にのぼり、頸の間に血熱をたくはえ、血余りて喉痺を病む。また手の少陰、少陽の二脈も、喉気に並ぶ、火は腫脹を主る、故に熱。上焦に客して咽嗌はるる。

或いは、腫れ痛み、或いは瘡を生じ、或いは紅に腫れ、核を結び腫れ痛み、或いは閉塞り言うこと能わず、ともにこれ風熱、痰火なり」<鍼灸重宝記>


「喉痺の脈、両寸浮洪にしてあふるる者は上盛んに、下虚す。脈微伏を忌む。曰く尺脈微伏は死す。実滑なる者は生く。咽喉は気の呼吸、食の出人乃ち人身の門戸なり。喉舌の病は皆火熱に属す。数種の名ありと言えども軽重の異いにして火の微と甚だしきとなり。微にして軽き者は緩に治すべし。重くして急なる者は惟砭鍼を用いて血を刺して上策とすと見えたり。」<脈法手引草>

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