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臨床経絡

「経穴ゲートスイッチ理論」に基づいた臨床現場で役立つ経絡治療の紹介

沢山の東洋医学の理論があり、それを学校で学びますがどのように運用するかまでは教えてくれません。「経穴ゲートスイッチ理論」を理解すれば知識が臨床に活かせるようになります。

ここでは「入門」「症例集」「臨床ひろば」「異論な医論」の4つのテーマに分けて紹介しています。

症例集

寝ちがえ(奇経)

今朝、息子が起きてきて寝違えたみたいと言った。
「おまえの鍼箱持っておいで」
我が家には家族それぞれ「My鍼箱」がある。

治療はあまりに簡単なので知っている臨床家からは笑われてしまいそうだが

結果から言えば「後谿‐申脈」

頚の前屈に痛く左右差はないというので「督脈か膀胱経」の抵抗によって痛みが出ていると判断した。
督脈なら「奇経」の主治穴「後谿」、膀胱経へのアプローチはいろいろある(自経からもってくる・肺経から持ってくる・腎経から持ってくる・脾経から持ってくる・肝経から持ってくる)が奇経との組み合せが一番妥当なところか。

まあ、まずは「後谿」一鍼。
「どう?」
「あぁ。。だいぶんとれた」
「もう少し・・・」

これでも良いかなと思ったが欲張って「申脈」にもう一鍼。
「どう?」
「うん。もうほとんど取れた。ありがとう」

膀胱経で申脈を選んだのはご承知の通り申脈は膀胱経であるが奇経の陽蹻脈の主治穴で督脈の後谿穴とはよく対で使われる。

こんな患者さんばかりだと楽ちんなんですが。

腰痛(ひねると痛い)

7月の学術交換会での症例。

メンバーのY先生がまだ見えてなかったので先に来ていた先生方と談笑している時のこと。
T先生の様子が変なので聞いてみると「腰が痛い」らしい。

「なんか辛そうですね。見てられないからY先生が来られる前に治療してあげましょうか?」
「どんな風に痛いんですか?」

「左の腰が立ち屈みや寝返りに痛むんです」

「捻ると痛いのかな?それとも曲げ伸ばし?」

「どちらかというと捻ったら痛い」

「ズキズキ痛みます?」

「いやそれはないです。安静にしていると大丈夫」

「痛いのはどの辺り?」

「ここら辺(胸椎12番目から腰椎1番目・膀胱経で言えば二行線)」

「いつごろからですか?」

「多少違和感があったのは随分前からですが酷く辛くなったのは先週半ばからかな…先の日曜日には〇△学会の支部会で治療してもらったんですが…」
「あんまり良くならないんで昨日はストレッチをしてみたら少しは軽くなったんですが…」

T先生に問診している間T先生の動きを観察していると痛みを確認するためにしきりに腰を動かしている。
つまり捻ると痛くて可動域が凄く狭いんだけれども衝突的な痛みではないのが良く判る。ズキズキする痛みが無いし衝突的な痛みでもないので筋のひきつりがあるのは間違いないが実際に傷ついている範囲は小さいはずだ。おまけに昨日ストレッチをしたら少し良かったというから可動域が狭まっているのも筋の引きつりがあるからに違いない。

こんな症例を目の前にすると臨床家の血が騒ぎ出す。だって腰痛治療が苦手な僕(早い話が下手くそ)でもポイントゲットできるチャンスの到来なのだから。

脈診してみると結代がありやや洪で革。T先生は不整脈があってそれが原因で最近軽い脳梗塞を起こして少し舌がもつれるようになってしまわれた。それにしても今日は舌のもつれがいつもより強い。

病症の現れている範囲を診ると帯脈に沿っているので「曲げ伸ばしにも痛い」と言っても帯脈の病症にひっくるめても構わないと思った。
普通なら直ぐに帯脈絡みで「臨丘‐外関」に飛びつきそうだが脈状を鑑みるとそのまま帯脈に手をつけても脈状にまで影響する鍼になりそうにない予感がした。


では?どうする?

T先生の話を振り返るとしばらく前から腰がおかしかったということは胆経に何らかのストレスが続いていたと考えられる。直ぐに思いつくのが不整脈だ。西洋医学で不整脈と腰の痛みを関連付けて語ることはまずないと思うが東洋医学では関連がある。

不整脈(結代)を起こす原因になっている心経と腰痛が起こっている胆経は「子午関係」によって強く関連付けることができるのだ。T先生の脈状は初めて診る訳ではないので今日の脈状に現れている「結代」がいつもより強いことと舌のもつれがいつもより目立つことに注目した。心の変動が最近続いているとしたら。それが子午的に胆経に及んでいるのかもしれない。

もしそうなら胆経(または帯脈)へのアプローチを心経絡みですれば脈状も良くなるかもしれない。

神門穴を使ってみよう…

ステンレス3番1寸で5㎜ほど刺入して和的に手技して待ってみた。しばらくすると押手の下が脈打つ感じがし始めたので一旦抜鍼して脈状を診た。跳ねたような硬い脈状が落ち着いて伸びが良くなっている(長じた)。結代も減っている。

「ちょっと起きて腰の痛みを確認してみてください」T先生起き上がろうとしたがまだ痛みがあって少し辛そうにしながらベッドから降りた。
ベッドから降りた後、からだを動かしながら遠慮がちに

「少~し、軽くなったみたいです」

おそらく本人が言うほどには軽くなったとは感じていなかったと思うけれど、見ていると動かしている可動域がかなり広がっているから効果が出ているのは間違いない。しかし、可動域が広がってはいるが本来の可動域よりはまだ狭いから途中からは痛みが生じているはずだ。そこで生じてくる痛みは先ほど術前に確認した痛みとあまり変わらないはずなので本人はそれほど改善しているという実感はないと思う。臨床現場ではよくあることだ。

次にもう一度ベッドに戻ってもらって今度はストレートに左の足の臨泣穴に刺鍼した。神門穴と同じように和的に行った。もう一度検脈。艶が出てきた。ベッドから降りてまた確かめてもらう。

「どうですか?」

「ああ。。。今度は大分良かです。」
「ここら辺に(痛みが)残っとっです。」と言って左胃倉穴辺りを触っている。

経穴ゲートスイッチ理論で遠隔的に経絡の不調和を改善すると本当に傷んでいる部位が浮き彫りにされてくることが多いのでそうなればと思っていたが今がその時。

今度は現場(傷ついている場所)に手を付ける段階になったと判断した。

川の氾濫の対策も同じだが水門や堰を開閉して流れをコントロールしながら氾濫した現場の土砂を取り除いたりしなければ完全復旧には至らない。今の2鍼(神門・臨泣)は水門や堰を開閉するスイッチにあたる。水流を調整できたら次は現場の修復だ。胃倉付近の硬結に向けてステンレス1番寸6を刺鍼した。
もう一度ベッドから降りてもらう

「ほぅ!あっ。。。大分良いです。ほとんど取れてる」

「強いて言えばどの辺りに残っていますか?」


「ん。。。この辺りです」と右の腸骨髎・仙腸関節寄りに手をあてている。

その辺りを診ると確かに鬱積したような浮腫があるのでそこにもう1鍼。ステンレス1番寸6。

「あらっ!?もうほとんど取れました!」
「痛くない」

いつの間にかT先生舌の強張りも緩んでスムーズに発音している

以上4鍼で終了。

この症例は最初に遠隔的な取穴を採ったが経絡治療を採らない鍼灸師ならそのまま痛みが起こっている左胃倉穴付近に鍼をするところで、それだけでもおそらくちゃんと結果は残せると思う。しかし経絡的に傷害された経絡に絞り込むことで単なる腰の痛みの治療から全身的な治療のひとつとして捉えることが出来る。加えて鍼数を減らしたり治療効果の持続をより期待できると思う。

足首が痛い

Royal_Ballet_School

今年、英国ロイヤルバレエスクールを卒業しポーランドのワルシャワバレエに入団することになったKenちゃん。
ロイヤルの卒業試験に向けて難しい振付を何度も何度も練習をしていて左の足首を傷めたらしい。
卒業試験も終わって2か月以上経って今はそんなに無理もしていないしドクターやトレーナーには診てもらっているけれど痛みが完全には取れていないという話をkenちゃんの身内の方から聞いた。Kenちゃんはスクールが休みになると普段は日本に帰ってきているから今回もそうだろうと思い込んで「治りが悪いようだったらKenちゃん帰ってきたときに診てあげましょうか?」と軽く請け負ってしまった。

「必ず治るからね。そのうち治るからね」
「でも痛いの無理して使ったらダメだよ」

気楽にそのうち治るからそのきっかけと養生の仕方をアドバイスすれば良いからというくらいの気持ちだった。
まあ、旨く行けば僕が鍼をしてそのきっかけをつくってやれば近いうちに治るだろうとは思っていた。

直ぐに結果を出さなければならないという切羽詰まった気持ちは僕の中にはなかった。


足の状態はと言うと、左踵骨と距骨で作る後関節面の傷害。発症の経緯を考えると傷めた時に関節からの音を聞いておらず内出血もなく日が経つにつれ次第に痛みが顕著になったみたいだから靭帯や腱の一部断裂とかはなさそうだ。
また最初から普通に歩く分には痛みはない。ただ足関節のこわばりは常にあってバレエ独特のあの足関節を過度に底屈させて下腿から先がまるで一本の棒の様に真っ直ぐになる形(ポーズの正式な名称を忘れてしまった)をすると余計に突っ張る。更に伸ばす(常人にはできない関節の可動範囲!)とズキンッと痛みが起きて思うように踊れないらしいので過度に底屈させた時のみに傷ついている部位に負荷(おそらく過度に底屈した時にだけ傷ついた部分を圧迫して刺激していると思われる)がかかっていると考えて良いと思う。傷付いている部分は極狭い範囲だ。また自発痛がないのは炎症がないか殆どない証拠だ。
彼はここに来るまでにイギリスで西洋医学的な検査や治療は十分受けていたのだが特に整形外科的に問題のある所見は見当たらないと説明されていたようだ。

やはりイギリスでも日本と同様に西洋医学的に診れば症状があっても理学的検査所見がなければ異常なしというのかな。その点、東洋医学は臨床家の感じるままを言えるのでお喋りの知ったかぶりの僕の性分に良く合っている。

1回目の治療は傷付いた部位が明らかに腎経の流注だから絞り込んでアプローチしやすい。またこわばり感は傷ついたところを守ろうとする防御反応でこれに関わっているのは胃経の流注だ。まずこわばり感を和らげる為に胃経の子午、心包経の内関穴にステンレス0番8分を和的に刺鍼した。1分くらい手技をしたところで足関節を伸ばしてもらうと痛みは取れないが周りのこわばった引き攣りが和らいだとKenちゃん驚いている。
次に子午的に大腸経を診て右の合谷穴に同じように刺鍼してまた足を動かしてもらった。今度は痛みの方も幾分和らいだ。その後は踵部、前脛骨部に散鍼した。
術後右合谷穴と左照海穴に灸点を付けて自宅で「ねりもぐさ」をやってもらうことにした。
2回目は同様の治療を施した。
3回目は痛みの部位が小さくなって殆どピンポイントになってきたので同様のアプローチの他に傷付いている部分に直接鍼を打った。Kenちゃんには「今日は随分痛みを感じている場所が絞り込まれてきたから傷付いている部分に直接鍼をしますね。怪我をした時は傷付いた部分はその怪我をした時からしばらくが治ろうとする力が最大で慢性化してくるとその力はグーッと落ちるんだよね。で、そんな時は改めて傷を付けると治ろうとする力が上がるんだよ。新たに傷付けるといってもほんのちょっときっかけだけで良いんだけど鍼はその点丁度良い太さなんだよ。だから今日は治ろうとする力が落ちてしまっているところに直接鍼をしますね。ただ傷付けると言ってもいつもと変わらないくらいの鍼だから心配しないで良いよ。もし鍼が終わって痛みがあるようでも無理をしなければ大丈夫です」と説明した後ステンレス0番8分で関節面の過伸展した時に踵骨が初めてぶつかる部位に1.5cm程刺鍼して0.5mm程抜き差しした。
4回目は前日久しぶりに踊ってみたそうだ。最初はこわばりはあったが痛みはなかった。しかししばらくして痛みが出てきたのでその時点でやめてみたら次第に痛みは治まって今日はいつもぐらいに戻っているらしい。
治療は1・2回目と同様のことを施した。
5回目いよいよ明日はワルシャワに発つという日。「Kenちゃん。今日はこの前やった直接傷ついているところにもう一回鍼をしておくね」と言って3回目と同じような方法をとった。

「今日で僕の治療は終わりだけれど傷はまだ完全には治っていないので痛みがある間は無理しないでね。こわばっているのは傷を守ろうとする防御反応だから傷が治ったらとれるよ。傷が治るきっかけは作っているからね。必ず治るけど無理したら駄目だよ。また休みになったら診てあげようね。」と言って治療を終了した。

OPERA NARODOWA

2週間ほどしてKenちゃんの消息が入った。その後、ロンドンからワルシャワに入ってからは痛みもなく無事に入団して住まいも決まったらしい。

その時聞いた話だがワルシャワバレエに入団は内定していても入団前に怪我とかがないか厳しい健康診断があるらしくちょっとでも怪我とかあると採用は保留らしい。実際Kenちゃんと一緒に内定を受けていた人は怪我が治っていなくて本採用は保留のままだそうだ。

まるで大リーグの入団時みたいだ。

そんな切羽詰まった状況だとは知らなかった。おまけに今回は日本に帰ってくる予定はなく本当はロンドンから直接ワルシャワに入るはずだったらしい。その予定を変更してただ鍼治療だけの為に帰国したなんて知らなかった。Kenちゃんもそのご家族も謙虚な方ばかりなのでそういうことをわざわざ言われないから知る由もなかった。
知っていたら小心者の僕だからあんな風にリラックスしてはできなかったかもしれない。

今回は旨くいったから良かったが振り返って今になってビビッている。

ヨカッタ・・・

胸部の痛み(腎経)

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75歳の女性。丸顔の童顔でちょっと太りすぎで皮膚がパンパン張っているので50代と言っても疑われないだろう。友人と会食した際肩こりがひどいならと背中を強く押されて以来胸が痛くなって辛いと訴えている。
この患者さんは馬乗りになられて背中を強く押されたらしい。胸椎の圧迫骨折にならなくて良かった。

患者が胸が痛いと訴えたときにまず確かめなければならないのはそれが胸郭内由来か整形外科的なものかそれ以外(例えば心療内科的なものなど)かだ。
今回は患者が痛みの由来を最初から解説していたし僕が診ても内科的な問題は心配しなくて良さそうだ。心療内科に関してもしかり。
整形外科的に診てみると左第3胸肋関節がやや腫れている。そこを押すと痛みが強くなる。左第3肋骨弓に沿って軽く押してみてもひびや骨折からくる痛みは発現しないので胸肋関節の軽い捻挫と診て大丈夫だと思う。
ここは腎経の流注だから子午的に考えれば大腸経に何か反応があるかも知れないと思い左右の前腕を接経してみた。思惑通りあった。右偏歴。
偏歴と言うツボはよく反応が出るところで当たると結構良い結果を導き出せるツボなので「これは旨くいくかも」と思った。<br />
早速、右偏歴にステンレス2番8分の鍼を和的に施術した。いつもの0番でも間違いではないのだが偏歴を触ってみてその硬結のしこり具合から診て0番だと手技に時間がかかるしその分効果がクリアに見えない気がした(曖昧な言い方しか出来ないが、何となく今回は0番より2番という感じ)。

20秒ほど手技をして「胸はどうですか?」と聞いてみると触るとまだ痛いが自発痛も動作痛もなくなったという。
次に流注が腎経と深く関わりのある衝脈の治療穴である公孫にステン0番8分を刺鍼した。これは患者が元々太り過ぎであるので日ごろ脾経の調整をしているので併せて使ってちょうど良いと思った。

多くの場合ひとりの患者が持ってる病症の由来の経は多くて2経だ。新たに起こってくる問題や怪我も多くは最初から問題が元々ある経に出ることが多い。この患者も脾腎の相剋に問題があるのでこの場合も背中を強く押されて傷めたのは腎経の流注だった。膀胱経・脾経・胃経の流注でもおかしくはない。しかし小腸経に起こる確率は少ないと思う。

次に左第3胸椎の棘突起左縁を診てみると圧痛があるのでここにも同じように施術した。
病症が胸肋関節部に有る場合は胸椎棘突起部を胸椎部に病症が有る場合は胸肋関節部を診るのは怠ってはいけない。必ず治療すべき箇所が見つかるはずだ。

今回は軽い胸肋関節の捻挫だったのでこの1回の治療で後は寛解治癒した。

余談だが。あんま・マッサージ・指圧には国家資格の免許制度があるが鍼と違って免許のない者でも似たようなことは出来る。だから子供がお小遣い稼ぎに親にあんまをしたり親しい者同士で肩を揉み合ったりすることは良くある話だろう。中には器用な人がいてプロ顔負けの手さばきを持っている人もいる。ただ手さばきだけだったらプロも認めるような者でも無資格者には変わりない。<br />あんま・マッサージ・指圧はれっきとした医学なので理論もあるし技術論もあり中には危険も伴う場合もあるから国家資格が必要なのだ。医療行為として足りるだけの理論も技術も要求されるべきものなのだ。ただ揉むのが上手だったら認められるというものではない。(ただし営業目的でなければ法的には何の問題もありません)<br /><br />カイロプラティック(整体)も米国由来の手技療法で国家資格の柔道整復術(整骨術)とよく似ているが国家資格ではない。国家資格ではないので基礎的医学の知識の習得の義務は無い。即効性があって有益な場面も多い手技療法なのだが日本では医療行為として認められてはいない。最近は養成学校も整備されてきたので質の高い整体師もいるが30年ほど前は数日講習を受けて会費を収めれば免状がもらえたので整体師の質のばらつきは鍼灸師どころではない。
以前は平気で行われていたがあまりにも事故が多いので頚部・腰部に関しては厚生労働省から禁止された施術条件項目があることは一般の方々にはあまり知られていない。(大雑把に言えば脊椎にヘルニアなど何らかの障害があったり骨粗鬆症があればやってはいけません)
カイロの施術を受ける場合は術者が基礎的な医学の知識があるか良く見極めた方がつまらない事故に遭遇する危険を避けられるだろう。一番多い事故は圧迫骨折だ。

外転神経麻痺(斜視)

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切羽詰まった声で

「目が動かなくなって病院で治療しているのですが一向に改善しません。鍼でなんとかなりませんか?!」

なんとかなるかもしれない。
なんともならないかもしれない。
状況によって得られる結果は随分違う。

TVのお薬のCMのようには言い切れない。

とにかく診せてもらうことにした。


主訴)
右眼球が内側に向いたままでものが二重に見える。

現病歴)
2012/7 /18
風邪を引いて熱がでたのだが翌日目が覚めてみたらものが二重に見えるようになっていた。鏡を見ると右の眼が内側によってしまって右眼は真っ直ぐものを見つめられないようになっていた。
驚いてかかりつけの内科を受診、脳神経由来の可能性を鑑別するために 市内の脳神経外科に回された。頭部MRI・MRA画像診断・頸動脈エコー・脳血流測定・脳波・平衡機能検査を受けたが脳に関しては異常なしだった。斜視の程度は遠位で40°以上、像のずれは計測不能。
しかし症状から判断して外転神経麻痺と診断され治療のため入院しステロイド療法を開始した。

2012/8/3
脳神経外科の紹介で国立の神経疾患専門の医療センターに転院。
サルコイドーシスの疑い後に否定。
ステロイド療法を継続(通院)。

2012/8 /9 改善が見られないのでフィッシャー症候群の疑いで近畿大学に検査依頼したが陰性。

2012/8/27 症状の改善が思わしくないので更に精査の為に医療センターに検査入院。頭部造影MRI・頭部CT・アイソトープ検査・髄液検査。
検査結果は異常は認められなかったが入院の2週間もステロイド療法を続けた。退院後もステロイドを処方されている。

既往歴)
甲状腺腫摘術(大分・N病院)
甲状腺腫摘術による甲状腺機能低下でチラージン服用中

治療経過)

初診)2012/10/20

斜視がひどく、二重に見えてつらい。病院で色々検査はしたが改善が十分にない。このまま治らないかと不安になっているところに鍼灸治療が有効であると聞いたので受診してみることにした。

所見)
いくつかの医療機関での検査結果を踏まえてのことだが右眼が大きく内眥の方向に傾いてしまっているのは脳内の問題ではなく鋭眥を巡る肝経・胆経・三焦経・小腸経の変動によって右外転神経が麻痺したことが強く関わっていると思う。
脈診してみると肝の脈に牢脈が強く出ている。
患者も内眥の奥に引き攣る感じがあるという。

切経)
患者の右乳突筋前縁の奥に強い緊張感がある。軽く押すととても痛いという。ここは肝経の流注。

治療方針)
発症が2012年7月8日だから既に3か月半が経っている。神経がやられて機能を失った場合その回復力が大きい時期は極短い。その早い時期に鍼灸治療をすればよい結果を導き出すことも多いのだがその期間は印象として障害直後から1週間以内が一番望ましい。3か月半はちょっと厳しいかもしれないが個人差もあるので可能性がないとは言えない。とにかくやれることはやってみようと思う。


治療)
肝の見所に強い牢脈があるのでこれを取ってみようと思う。左太衝穴にステンレス0番八分鍼を刺鍼した。

この一鍼は検査の一鍼でもあり治療の一鍼でもある。もし患者が何も感ずることがなければ見掛けは肝の変動由来のように診えて実はそうではないということになる。診直す必要がある。その一鍼で患者が何か感じるものが得ることがあれば間違いなく肝の変動が関わっていることは間違いないだろう。その一鍼は診立ての妥当性の証でもあり治療の一鍼でもある。

和的に手技しながら患者に今の状態を聞くと眼の奥の引きつった感じがしなくなったという。
標治的には完骨・瞳子膠・絲竹空・攅竹に置鍼。人迎・扶突に和的に刺鍼。
家庭では左合谷(面目は合谷)・右三里(肝経に通ず・眼に通ず)・左太衝(肝経)にねりもぐさのお灸とリハビリの筋トレをしてもらうことにした。

リハビリ)
顔面神経麻痺もそうだが病院ではほとんどリハビリを指導しない。しかし、リハビリをするのとしないのでは治療効果に大きな差が出る。僅かでも神経が生き残っていればリハビリに筋トレをすることでその賦活力は大きくなる。また仮に神経が100%損なわれていても残った筋肉で代償的な運動ができるようになることもある。

筋トレの方法は簡単だ今回の場合、患者は右方向に眼球を動かすことができないのだがそのできないことをやるしかない。右が殆ど動かなくても左の眼球は動くので今自分が脳からどんな運動の命令を出しているかは実感できる。四肢のリハビリも健常側も一緒に行う方が効果が大きいが目の場合は脳に障害がない限り左右連動しているのでその点やりやすい。今回の場合は顔を正面に向けたまま眼球だけをできるだけ右側の物を見るように動かすのがリハビリと筋トレになる。

直ぐにはできなくても眼球を動かそうと試みれば脳からの信号は障害されている部位までは必ず届いているので少しでも神経が器質的に残っていればその信号は僅かでも筋肉まで到達しているはずだ。

例えば器質的に60%生き残っていても機能的に90%失われているように見える運動障害もある。その時は生き残っている機能の6分の1しか働いていないことになる。だから見かけはほとんど機能を失ったように見えるのだ。しかしそんな時、適切な治療に加えて積極的にリハビリをすれば最大60%までは機能が戻ってくるはずだしそうなる。これをやらないのはあまりにも勿体ない。

10/27 複視の症状は大きい変化はないが元々強かった肩こりがほとんどなかった。
11/8 風邪を引きかけたがお灸(ねりもぐさ)をしたら直った。複視はまだある。

治療)ほぼ前回同様の選穴をした。

11/21 11月の定期検査の結果は像のずれ幅は三分の一くらいに改善された。斜視は近位で4°、遠位でのずれが25°
家庭でのお灸(ねりもぐさ)は左合谷・左三里・右太衝(三里と太衝の取穴を左右逆転させた)
12/3 11月27日朝起きたら右顎が痛んで大きく口を開けれなかった。翌日は少し楽になった。28日はK医療センターでの頭部MRI検査は異常なし。
治療)斜視の治療は通常通り行うが顎関節周囲の筋群に緊張と腫れがあるのでその処置と頚肩部の緊張を緩める処置も加えた(省略)
12/10 特になし
12/17 特になし
12/21 年末の自営業の繁忙期で腕肩の筋肉を傷めた。治療はその症状を踏まえて局所に散鍼。
12/28 筋肉痛はかなり収まってきた。
1/17 正月休みが入って筋肉痛は治まった。
2/1 定期検査では斜視は近位で4°遠位で25°
2/8 特になし
2/15 特になし
以上基本的には初回同様の治療
2/23 2月19日眼科で定期健診;近位でのずれは4°と変化はなかったが遠位では20°に改善。
像のずれを強く意識していない時間帯も出てきた。像のずれは(16~20)
3/1 特になし
3/6 特になし
3/12 特になし
3/21 眼科での定期検査の結果は近位のずれは4°遠位は20°で変わらないが像のずれは(14~20)と改善。

現在も週1回のペースで加療中。まだ検査結果も自覚症状も思ったよりも動いているので諦めずこのペースで継続治療を計画している。
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