風邪を引いて咳の症状があって病院を受診するとよくムコサールとかムコソルバンという祛痰剤が処方される。このお薬はアンプロキソール塩酸塩という物質が主成分だ。副作用はほとんどなく安全なお薬なので余程特異体質でない限り飲んでも心配ない。ただ効き目と言えば「イマイチ」だ。漢方薬の麦門冬湯も祛痰剤にあたるがこっちの方がよく効く。前にノートで「西洋医学は発展途上でこれからが楽しみ、東洋医学はほぼ完成している医学だが証明がなされていないだけ」と書いたがアンプロキソールと麦門冬湯の関係が正にそれだ。
- 麦門冬湯の成分は麦門冬(バクモンドウ)、半夏(ハンゲ)、人参(ニンジン)、硬米(コウベイ)、大棗(タイソウ)、甘草(カンゾウ)の6種類からなる。どれか一つ欠けても効果は半減する。だがどれがどのように相互作用しているかは本当のところは判らない。しかし判らないと言うのは現代の科学をもってして完璧には説明が出来ないと言うことで東洋医学的にはちゃんと説明が出来る。「葛根湯」のところで書いたように漢方薬だから「証」をたてる。「証」をたてられるということは東洋医学的には整合性を持って説明できたということになる。麦門冬湯は科学的に完全には証明されていないが臨床的にはよく効くお薬として経験的に大昔から使われてきている漢方薬だ。
- アンプロキソールは「痰に含まれるムコ多糖を分解する酵素を活性化させることで痰の粘性を低下させる。また気管支の繊毛運動を促進し肺胞保護物質の生成を促進させ肺胞・気管支における表面活性物質の生成を促す」というのが科学的に証明されている。
西洋医学では古くから伝承されてきた漢方薬や民間療法に注目して「この作用を引き起こしている主な成分は何なのか」を解明してそれを臨床に役立てようとすることがよくある。研究の結果、もしその主たる成分が特定できたとしよう。普通に考えればその成分だけを純粋に高濃度で患者に処方すればもっとよく効くような気がするがはたしてそうはならないことも多い。漢方薬は考えてみれば不純物だらけだが漢方薬の作用の主たる成分だけを抽出して新しく純度の高い薬を開発してもその効き目が漢方薬よりも優れているかと言うと期待ほどではないものが多い。それが何故かが現代の科学力では説明できないことばかりだ。東洋医学の次元に科学力がまだ追いついていけていない。不純物と思われて切り捨てられている成分の何かが主成分の働きをより強固なものにする為に役立っているはずなのだがそれが何なのかがまだ判らないのだ。