堅い話になりますが…
西洋医学と東洋医学を比べるとその発展の経緯が全く異なります。
西洋医学はその時代時代の科学の最先端を駆使して医療現場にフィードバックしてどんどんミクロ的見識を深めてきました。ついには現代においては分子レベルの域まで達しています。つまり西洋医学は科学的に人体の不思議が解明された分だけ医療現場が発展してきました。その結果いつの間にか科学的証明があるものだけが真実として最重要視され証明のないものにはあまり評価を与えられないという風潮が浸透してしまいました。しかし実際には人体の不思議は科学的にはまだ解らないことの方が多いのです。実はヒトゲノムの解明が始まった近年になってやっとその人体の不思議の解明の入口に立ったばかりということになります。誤解を恐れずに言えばこれからがとても楽しみな発展途上の医療システムです。
逆に東洋医学は初期の頃(歴史に残らないほど大昔)は解剖も行われていたようですがその後東洋的な価値観から公には解剖的考察はされなくなり西洋医学と違った視点で人体観察をしてきました。その観察は主観的で直感的ではありますが二千年に及ぶ追試によって理論もシステムも淘汰され洗練されてきました。いわゆる経験医学と呼ばれるシステムです。中国に二千年以上前に始まり漢の時代には理論のほとんどが編纂され明の時代にほぼ完成した医学です。しかしシステムはほぼ完成していますが科学的根拠に乏しいので一般的には西洋医学より遅れているように見られがちでした。
しかしよく考えると現代の科学力をもってしてもまだ東洋医学を証明できるところまで来ていないというのが本当のところです。東洋医学が証明を待たずに人体の不思議を先に先にと追い求めて行った結果でもあります。つまり東洋医学は事実の積み重ねによって淘汰されてきているのでそういう意味で西洋医学よりも早くシステムはほぼ完成していると言えるのです。これからの科学の進展によって東洋医学の理論やシステムがどのように評価され修正されていくかは東洋医学者の一人として楽しみです。
いずれ人体の不思議は西洋医学的にも東洋医学的にも科学的に全てが明らかになっていくでしょう。そしてその時は西洋も東洋も区別のない医学に到達し素晴らしい医療システムが出来上がるのだろうと期待しています。
しかしただひとつ気になることがあります。現在、東洋医学の研究者の中には東洋医学の世界観を充分理解しないまま研究をしておられる方々もあります。勿論科学的検証をするには新しい見方から入っていかなければ見えないものもあると思います。しかしそれだけではどの方向性をもって科学的実験検証をするべきかは見えてこないのではないかと危惧しています。何故鍼が効くのかはそれが二千年以上も淘汰されずに残るに絶対必要だったはずの理論とシステムを鍼という道具と共に検証していくべきだと思っています。
つまり東洋医学が東洋医学であるのは鍼という道具や生薬を使うから東洋医学ではないと私は思っています。東洋医学というシステムは東洋医学の世界観と理論があって初めて成立するのであってその理論の整合性が科学的にどう評価されるかが決定付けられるまでは世界観・理論・システムともに後世に伝えていく責任があると思います。
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