経絡治療家において脉診は欠かすことのできない診察手段であって毎回の診療においても繰り返し脉診をしながら診断、治療を行うのが必須です。
脉診には大きく分けて脉差診と脉状診があり経絡治療ではからだの状態の凡そ全てをこれで東洋医学的に推し量ることができます。
◆ 脉差診(六部定位脉診)では十二経絡の大過不及を橈骨動脈の拍動の強さを観察することによって主治経絡などを決定します。「難経六十九難」に基づいた経絡治療の証決定ではこれを主に使います。これは私が考案した簡易脈診法を行えば早い時期(1日指導を受ければ)から精度高く診断できるはずです。
◆ 脉状診では鍼灸においては経絡の変動の確認や予後の判定の他、刺鍼法やドーゼを 決定すること、更に毎回の治療直後に治療の良否をはかるのに重要です。
もし治療直後の脉状が治療家の思うところでなければ決して治療を終了してはなりません。 また更に脉状診においての予後の判定については西洋医学的に言えばこれは橈骨動脈の観察をしていることに他ならないから延いては脉診は循環器疾患の予後予見に大いに役立つはずです。
どの時点で治療を終了させるかまた施している治療の評価を術者がその場で如何にして判断するかは脈状診に拠ることが一番妥当だと思います。しかし初心者にとって脈状診は非常に解りづらい診察法です。しかし解らないと簡単にあきらめず繰り返し繰り返し一施術の中でも何回も検脈することが大切です。また健康な人の脈を基準にして病症のある人の脈状との違いを覚えるのはとても有意義です。
脈状には一般に二十四脈と七死脈があります。
以下に代表的な脉状を列挙します。しかし実際には脉状診ほど主観的な診察法はなく文献を読み漁っても始まりません。実技研修を通してより客観的な領域に近づける必要があるので、そういう質の高い研修の場を捜し求められることをお勧めします。
◇七表の脈;陽の脈
浮;水にただよう木のごとし、按せばかくれて指にあたらず
芤;うつろになりて中はなし、小口を切りて葱を按せ(大量出血の疑い)
滑;なめらかにして丸く打つ、球をつなぐにひとしかるべし
実;按すも挙ぐるも力あり、遅速もなくて強く大きし
弦;張りたる弓の弦を按す、きびしく急に浮きしずみなし
緊;よりのかかれる弦と見よ、ふぞろいにしてはやくかたきぞ
洪;ふとく来たりて長く去り、ひろく踊りてちからあるなり
◇八裏の脈;陰の脈
微;かすかに打ちてやわらかに小さく細くかるくおぼゆる
沈;按せばしずみて強く打ち、うかめてなきは浮の脈の裏
緩;浮にやわらかに力なし、往くも来るもゆるやかとしれ(胃の気ある平脈)
濇;細く動きて渋るなり、指を挙ぐれば無きように見ゆ
遅;極めておそく力あり、指を沈めてゆるく尋ねよ
伏;沈みかくれて骨につく、筋の下にてうかゞうて見よ
濡;和らかにして力なし、手を軽くしてさぐり求めよ
弱;たをやかにして按せばたえ、軽くやわらか綿とおぼえよ
◇九動の脈;陰陽兼ね合わせた脈
長;竿のごとくに長うして、三部の間に余りこそすれ
短;按すも挙ぐるも数ありて、短く去るは長のうらなり
虚;力なくしてやわらかに、広く大に遅く有りなし
促;せわしき中に一止り、またまた来り又はつまづく(上整脈の一種)
結;おそく緩くぞ往き来る、むすぼふれては時に止まる(上整脈の一種)
代;何十動と極まりて、ぎょうぎ乱さず打ち切れるなり(上整脈の一種)
牢;鼓の皮を按すごとく、沈みかくれて強く大きし(陰中の陽脈)
動;豆を転ばすごとくなり、踊らず動き関のみにあり
細;来るも往くも遅くして、いかにも細きいとすじとしれ
◇四季の脈;四季それぞれに現れる脈
弦;春の脈、来ること軟弱にして長なるをいう
鈎:夏の脈、来ること疾く、去ること遅きをいう
毛:秋の脈、来ること軽虚にして浮なるをいう
石:冬の脈、来ること沈濡にして滑なるをいう
◇その他の脈;
数;一息六至(平脈は一息五至)、陽であり熱とする
大;病進むとす脈の賊なり、火の象(かたち)、陽に属す
散;陰、至数斉(ひと)しからず
牢;陰中の陽脈
革;弦にして芤なり、陰とす、鼓皮を按すがごとし
脉状 | 性 状 | 陰陽 | 表裏 | 症 状 及 び 補 足 | |
浮 | 水にただよう木のごとし按ぜばかくれて指にあたらず | (陽) | 表 | 浮にして力あるは風なきは虚。寸口浮は眩暈頭痛す。 | |
芤 | うつろになりて中はなし小口を切りて葱を按ぜ |
| 表 | 吐血、下血または血滞りてながれず、経絡にみたざるなり | |
滑 | なめらかにして丸く打つ球をつなぐにひとしかるべし | (陽) | 表 | 血多く気少なきことを主る。手足くたびれ、小便赤く渋り痰気内熱を主る | |
実 | 按すも挙ぐるも力あり |
| 表 | 陰気隠れて内にあり、鬱熱脾胃を蒸して上食し、あるいは喘咳あるいは嘔吐し、手足つかれものうきこと主るなり | |
弦 | 張りたる弦を按ず | (陰) | 表 | 力衰え、盗汗、手足痺れ疼み | 肝部の本脉 |
緊 | よりのかかれる弦と見よ |
| 表 | 身痛み、腫物、癰疽に見わる | |
洪 | ふとく来りて長く去り |
| 表 | 脹満、頭痛、偏身疼痛、大便通ぜず | 熱、風、気 |
微 | かすかに打ちてやわらかに | (陽) | 裏 | 気血虚寒して臍下の冷積いたみをなし、瀉をなす | |
沈 | 按せばしずみて強く打ち | (陰) | 裏 | 邪裏にあり、気鬱疼痛を主り、臓腑冷えて三焦ふさがり、両脇の間、気ふくれ、手足共に冷えるなり | |
緩 | 浮にやはらかに力なし |
| 裏 | 胃の気のある平脉 | 四動の平脉より遅く |
濇 | 細く動きて渋るなり | (陰) | 裏 | 腎の精汁尽きて身を潤すの血渇き少なくなる脉 | |
遅 | 極めておそく力あり |
| 裏 | 腎虚して安からず、陽虚裏寒。 | |
伏 | 沈みかくれて骨につく |
| 裏 | 毒気三関に塞がり、手足おもく寒なり陰陽潜伏して関格閉塞す | |
濡 | 和らかにて力なし |
| 裏 | 気血おとろえつかれ、陽虚自汗を主る。 | |
弱 | たをやかにして按せばたえ | (陰) | 裏 | 精気虚極して骨髄空虚し、一身痺疼痛、寸口弱陽気虚し自汗、関上弱胃気上足、尺中弱陰気絶え骨肉痺れ肌いきる | |
長 | 竿のごとく長うして三部の間に余りこそすれ | (陽) |
| 気血条理ありて乱れず緩を帯びる時は百病治し安し | |
短 | 按すも挙ぐるも数ありて短く去るは長の裏なり | (陰) |
| 気滞り或いは胃の気おとろえて少し治しがたし。尺部にあるは死脉 | |
虚 | 力なくしてやわらかに広く大に遅く有りなし |
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| 気血虚搊す | |
促 | せわしき中に一止まりまたまた来り又はつまづく |
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| 陽盛んにして陰上足す。熱を裏に蓄わうる事甚し | |
結 | おそく緩くぞ往き来る |
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| 陰盛んにして陽相入れず。内外邪滞って積となる。血ながれ通ぜず、気めぐり散ぜず、脾間に積気あって手足痛み、もだゆる | |
代 | 何十動と極まりてぎょうぎ乱さず打を切れるなり |
|
| 元気おとろえ極りて臓気絶ゆる。 | |
牢 | 沈みかくれて強く大きし | 陰 |
| 陰中の陽脉 | |
動 | 豆を転ばすごとくなり | (陽) |
| 四肢拘攣し、多くは疼痛す。 | |
細 | 来るも往くも遅くしていかにも細きいとすじとしれ |
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| 元気上足。精血乏しうして形痩せかじけ、足脛しびれ、毛髪かわき、力弱く、髄冷え、腎の精汁漏ることを主る | |
数 | 一息六至 | 陽 |
| 風燥熱煩、陰虚陽盛 | |
大 | 洪の盛んなる者なり | 陽 |
| 浮大~陽の病 | 血虚気盛 |
散 | 至数斉しからず来り去る事定まりなし |
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| 心脉は浮大にして散じ | 気血ともに虚し |
革 | 弦にしてコウ(*1)なり | 陰 |
| 弦を寒とし、芤を虚とす。 |