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臨床経絡

「経穴ゲートスイッチ理論」に基づいた臨床現場で役立つ経絡治療の紹介

沢山の東洋医学の理論があり、それを学校で学びますがどのように運用するかまでは教えてくれません。「経穴ゲートスイッチ理論」を理解すれば知識が臨床に活かせるようになります。

ここでは「入門」「症例集」「臨床ひろば」「異論な医論」の4つのテーマに分けて紹介しています。

症例集

頸椎症

shorei

患者 66歳(♀)

主訴;右上肢が一時もじっとしておれないくらい痛むことが今年の初めから続いている。

整形外科に通院中だが一向に良くなる気配がないらしい。症状が発現したきっかけを問うたがこれと言った自覚はない。ただ症状が右肘関節を中心に大腸経に限って発現しているので肘関節に関節炎でもない限り西洋医学的に言えば頸椎かその周辺に原因があるか胸郭出口の周辺に原因がある可能性が強い。整形外科でけん引治療中。

発症時期が年末年始にかかってのことなのでこれまでの経験から「年末に大掃除かなんかで首を上向けて長く仕事をしたりしませんでしたか?」と聞いてみたら案の定

「はい、年末に家中の天井拭きを一人でしました」と返ってきた。

頸椎症の切っ掛けが目線より上の仕事のし過ぎでなることは良くある。
原因はおそらくそこら辺だろう。理由もなく症状が発現することはない。

問診をしたり脈診をしている間、患者さんは腕が痛くて仕方がないらしくしきりに腕をさすったり動かしたりしている。
痛みは肘を中心に大腸経に沿って走っている。西洋医学的に診れば色々あるけれど東洋医学的に診れば実はとてもシンプルな病症だ。

検査と治療を兼て「水泉穴」に5㎜m程刺入して和的処置を2分ほどしたら症状は取れてしまった。
ここ9か月ほどずっと続いていた痛みが2分ほどで取れてしまったので患者さんはキツネにつままれたような顔をしている。第7頚椎第1胸椎間は元々かなり負担をかけてきた跡があるので直ぐにまた症状が出るかもしれないがとりあえずこの場は症状がなくなってしまった。

経絡治療家にとってはそれほど不思議なことでもないが患者さんの喜ぶ顔を見るのは何回経験しても同じように嬉しい。毎回・毎日こんなドラマチックな結果が導き出されれば良いのだけれどこんな具合にうまくいくのは年に何回しかない。条件が揃っていたのだろう。

「最後の医者が名医」の喩

検査・治療の解説をしておくと、症状が大腸経に限局している。痛みが強い。などから子午的に考えて大腸経の子午関係にある腎経の郄穴の水泉穴に第一鍼を選んだら偶々旨くいきました。

突発性難聴(腎経の病症にどうアプローチする?)

先月(6月)29日、突発性難聴の61歳の女性。

右耳が全く聞こえない。

17日の朝、突然右耳からグワ~っと耳鳴りが起こったと思ったら全く聞こえなくなってしまった。
丸一日様子をみたが全く改善しなかったので、19日近所の耳鼻科を受診し突発性難聴と診断され、翌20日市総合病院に入院した。26日まで入院治療したが結局全く聴力は戻らなかった。

突発性難聴は鍼灸の適応だがヘルペスと同様で発症時から如何に時間を置かずに治療を開始するかが予後に大きく影響する。
この患者さん発症からおよそ2週間経ってしまっていて全く改善の兆しもなかったのだからそんなに簡単に安請け合いできないが・・・器質性難聴と機能性難聴の比率がどのくらいなのか・・・機能性が占める割合が大きければチャンスはあるが・・・

「時間が経っていて入院治療したのに少しも変化がないのはあまり期待が持てません。でも今日治療してみて何か少しでも変化を感じたら少しは望みがあるかもしれないから、その時はあなたの判断で何回か気の済むまで治療をしてみてください。ピンとこなかったら治療を無理強いすることはしません。少しでも機能が残っていれば今日の治療で何か変化を感じられるはずですから」と言い訳みたいだが説明して治療にかかった。

さて、どうする。難聴が主に腎の病症なのは判っている。

腎経と関わる経を挙げてみよう。

1) 腎経(自経)
2) 膀胱経(陰陽の対極)
3) 肺経(五行の相生)
4) 肝経(五行の相生)
5) 脾経(五行の相剋)
6) 心経(五行の相剋)
7) 大腸経(子午)

大雑把に列挙しても7経これらの陰陽を合わせれば14経・・・結局全部じゃんと言われそうだが・・・
そう、東洋医学の理論はどこか一部を切り離して考えられない。
どこから攻めるかは臨床家のセンス・・・かな・・・経験則とか色々踏まえて幾つかに絞り込む作業が必要だ。

自分はセンスがあるとは思わないがこの作業がとても面白く楽しい。患者さんの不安や苦しみと共感している回路とはまた別の回路が僕の頭の中にあって苦しんでいる患者さんを前に面白いだの楽しいだの不謹慎で怒られそうだが他に言い様がないのでお許しを・・・

まず1)の自経で選んだのは照海。これは奇経八脈の陰キョウ脈の宗穴でもあり3)の肺経に絡められる。肺経に絡められると言うのは肺経の列缺が奇経八脈の任脈の宗穴であり照海穴と治療において対をなすことが多いからだ。四総穴の「頭項は列缺」でもある。

ここまで考えると照海‐列缺の組み合わせがまずは第一選択肢として決まった。次に最近好んで使うアプローチとしてイマイチ絞込みが甘く確信がもてない時にやる方法をとった。
つまり「裏表」から挟み込んでみようと思った。

「裏表」も色々あるがこの場合の裏表は腎経の裏表と陰キョウ脈の裏表を使ってみた。

申脈‐後谿

陽キョウ脈の宗穴の申脈は2)の膀胱経でもある。また督脈の宗穴の後谿は6)の心経の対極の小腸経で耳に流注する。また督脈は百会で4)の肝経につながる。

もう一経、腎経の子午関係7)の大腸経も採っておきたかったので後谿とよく対で使うことの多い合谷を選んだ。

以上この五穴と患部も少しいじりたかったので聴宮と竅陰と加えて腎兪(左右)に刺鍼した。計九鍼。
これでほぼ全方位から腎経に向けて治療を施すことが出来る。
術後自宅で「ねりもぐさ」を施灸してもらうために最初の五穴に点を下ろした。

これらの関係に効果を相殺するような作用があるかどうか頓着しないで良いところが経穴ゲートスイッチ理論の都合の良いところだ。人体の自動調整機能を信じているとそういう小さいことに拘らなくなった。経絡治療を本気で勉強していない臨床家からすれば「何をそんなに細かいこと言ってるんだ。効きそうなツボ全部使えばいいじゃないか!」と言われそうだが経穴ゲートスイッチ理論を思いつくまではこのハードルが結構高かったのだ。判るひとにしか判らない。まあ、やり方さえ飲み込めば無理して判る必要もないけれど。

結果は良好で術後直後は変化はなかったが翌日昼ごろ突然ポコッと聞こえ始めて左と比べて半分くらい聞こえるようになったらしい。治療開始が遅かったので自信はなかったが思ったよりも機能が残されていたので幸いした。完全治癒は難しいかもしれないが半分でも聴力が戻ってきてよかった。

それにしても人体の持つ自動調整機能の可能性には驚かされるしそれをどこを使えばそのスイッチが入るかを発見した先人の観察力にはいつものことながら驚かされるばかりだ。

下肢がビリビリ痛む(胃経・脾経)

80歳になられる男性。健康管理で定期的に継続治療をされている。
80歳だがバリバリの現役。毎日々々オーバーワークの連続だがハートの熱い方なので簡単にへこたれる人ではない。診せていただいている僕には気弱なことを言われることもあるが仕事では衰えを見せない。もし僕が80歳で現役で臨床現場に立っていることができるとしたらと想定する時に実践例として憧れる人物のひとり。
今日はそのツワモノがへこたれている。

「おいかがですか?」
「んにゃ!もう、先生!どうも、こうも今週はいかんです。最初左足がなんかおかしかて思いよったら次に右足がビリビリしてきて、これがなんともひどくて寝ても覚めても収まらんで身の置きどころがありません」
「どがんしたもんでしょうか?神経痛でしょうか?」

東洋医学的に説明するとしたら?
簡単に説明がつく。

いわゆる神経痛ではない。
坐骨神経痛でないと判断するまず一番の根拠は痛みが左から右に動いているということ。一般的にこのような症状で坐骨神経痛であることは少ない。加えて症状が発現している領域が大腿前面で四頭筋部と下腿脛骨内側面だからデルマトームが合わない。西洋医学で説明しようとすれば2か所以上に神経を傷害している部位があることになり状況からして無理がある。精々病名を付けるとしたら自律神経失調症か。

しかし、東洋医学からみれば簡単でこれは気の不調和だ。
症状の発現している場所も胃経と脾経に限られていて非常に整然としている。
後はその発現の原因だがこの方の場合僕の経験上、散髪の時期が遅れて髪が伸び過ぎて耳介に毛先が触っているのがその大きな理由のはずだ。

耳介の一番内側を走る経は三焦経で脾経の子午関係。症状が出ている経だ。もう一つの症状部位の胃経は脾経の陰陽で対局にあたる。

経穴ゲートスイッチ理論で考えれば頭髪の刺激によって三焦経の流れに乱れが生じ子午関係の脾経とその陰陽関係にある胃経にまで及んだ病症であるからそれを調整する為のスイッチとして候補に挙げられるものがそこから絞り込まれてくる。

こんな簡単な理由づけで本当に良いのかは鍼を一本してみればわかる。原因を考えればまず外関にというところだが患者さんが真っ先に大腿部を指したので胃経の子午、心包経の絡穴、内関を選んでみた。
選穴・取穴はとても重要だが刺鍼に特別な技術はいらない。補も無い、瀉も無い。ただ正確に経穴に刺せれば良い。選穴が正しければゲートスイッチは入る。

左内関穴に3㎜くらい刺入してそのまま和的に構えて押し付けたり緩めたりしていると押手に脈打つ感じが広がりだしたので聞いてみると痛みの8割ほどがいつのまにかなくなっていた。
ダメ出しに左外関穴に同じように施術して一件落着。

症状は取れてしまった。

「症状はとりあえず取れましたけど原因は髪が耳に触っているからですから今日中に散髪に行ってくださいね。そうしないとまた症状が出るかもです。」

治療後すぐに散髪されたのもあってその後症状は出なかった。

肛門が引き攣るように痛い(督脈)

「経穴ゲートスイッチ理論」では症状からその発現している根拠になる「経(流注)」を絞り込んで治療方針を導き出します。誤解を恐れず言えば「証」を立てなくても「経」を特定できれば治療ができるものも沢山あります。以下はその一例です。

患者 75歳♀

主訴 肛門からひきつるような痛みが続いている。動作には関係ないがかなり痛いので内科を受診し大腸ファイ
バー検査をしたが異常所見は認められない。更にCT検査を行う予定(後日CT検査の結果、異常なし)。

既往歴・現病歴 脊柱管狭窄症

治療方針 病症は督脈の流注にあるので督脈の病症であると判断した。また痔疾に有効な百会穴も併せて用い
てみる。更に現病歴より陽蹻脈の申脈を従穴として用いることにする。

脈状 遅数=ヤヤ遅、浮沈=ヤヤ沈、虚実=虚、ヤヤ牢、ヤヤ濇

治療
①;後谿;手太陽小腸経(兪土穴)、八脈交会穴(督脈、陽蹻脈に交会)、作用;寧心安神、清利温熱、通絡止痛
②;申脈;足太陽膀胱経、八脈交会穴(陽蹻脈、督脈に交会)、作用;疏風解表、安神定志、舒筋活絡緩急止痛
③;百会;督脈(肝に交会(作用;平肝)、三陽五会(三つの陽経と足厥陰肝経、督脈が交会))、作用;情熱開竅、
健脳寧神、回陽固脱、平肝熄風

督脈―陽蹻脈の組み合わせを使い、右後谿穴、左申脈穴、百会穴(痔疾特効穴)ヘステンレス0番8分鍼を5mm程刺入し置鍼し途中から後谿穴には和的手法を加えた。5分程で症状は消失した。以後、同じ症状は出ていない。(2011.4.5)

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