もし、ある日あなたの膝が突然腫れて痛み出したとします。考えてみれば少し前からいくらか違和感はあった膝です。こんな時あなたならどうします。
まず多くの方は「整形外科」を受診されるでしょう。それは間違いではありません。しかし受診時のお医者さんとの会話の中にお互い誤解が生じやすいことがあります。気をつけてくださいね。
まず患者さんの立場で考えればほとんどの患者さんは多くの怪我は治療すれば元の状態に戻ると思っておられます。だからお医者さんもそのつもりで診てくれていると信じて疑いません。レントゲンで「ここが原因です」と指差されれば元に戻すべきところが特定できたからこれで治す目処が立ったはずだと。
- しかし多くの場合膝に限らず一度傷害を受けた関節は完全には元の状態には戻りません。しかし戻らなくても症状が出ない状態まではもっていくことはできます。例えば小学生の時に捻挫をしたとします。捻挫をすれば靱帯の一部が切れたり伸びてしまったりしています。これはもう元には戻りません。それでも治療を適切にすれば痛みや腫れもなくなって一見元に戻ったかのようになり時間が経てば自分が小学生の時捻挫をしたことさえ忘れてしまうようになることだってあります。 そして・・・中年・老年を迎えて筋力が低下したり体重が増加したりして足首が痛くなったりした時その由来が小学生のときの怪我であるとは思いもよらないでしょう。実は小学生のとき怪我をした後も足首の状態は決して健常ではなかったけれども症状が出なかったので気にも留めていなかったということなのですが。
- ところで怪我をしたところは元の状態には戻すことは難しいですが症状の出ない状態までにすることは可能です。ただしそこに掛けることが許される負荷は健常な状態よりも小さくなります。要するに無理ができなくなります。負荷の掛けられる範囲を増やすには膝の場合だと筋力アップや体重コントロールが役立ちます。
はなしを戻します。ではお医者さんの立場から考えればどうでしょう。 臨床経験が豊富であればあるほど上記のことはお医者さんも承知の上です。でもレントゲンに写っている損傷部位を指差してあなたに説明されたとしても長々と上のような話はされないことがほとんどです。それどころか関節の変形の状態によってはこれから先患者さんの膝がどのような経緯をたどるかということをデータとして持ってあるので「先は軟骨摘出手術その次は人工関節・・・」などと考えておられます。 最初から患者さんにストレートに伝えるお医者さんもいれば直ぐにはそこまで言われないお医者さんもおられます。しかしいずれにしても考えておられることはほぼ一緒です。すべてのお医者さんがそうだとは言いませんが多くのお医者さんは患者さんが元に戻るものと思っている状況でもお医者さん自身は「先は手術だ」と思っていることは多いのです。
- では、変形してしまった関節は最後は手術をしなければどうしようもないのでしょうか?たしかに、変形した関節は原則元に戻ることはありません。そして変形しているから痛いのだと皆さんは思い込んであります。だから変形が元通りにならないのだったら痛みを取り除くには削り取るか人工関節にするしかないと思い込んであります。患者さんばかりでなく多くのお医者さんもです。
- でも、私はそうは思っていません。条件さえ揃えば変形したままの状態でも痛みのない、仮に痛んだとしても許せる範囲の痛みとして付き合える落しどころはあると思っています。
- 何故、私が変形したままでも痛みのない状態が作り出せると思っているかといえば、実際にそういう人達が患者さんの中に沢山おられるのを知っているからです。具体的に言えば私の鍼治療では膝が悪いからと言って膝だけ診るのではありません。逆も然りで膝が悪くなくても診察や治療の必然として膝を診ることは毎回のことです。患者さんの中にはかなり変形の進んだ膝をもつ方もおられますが「痛くないですか?」と聞くと「痛くない」と答える方も多いのです。だから私は仮に関節に変形があっても痛みを感じない人がかなりおられることを日常的に知っています。しかし整形外科のお医者さんは専門的に特化した診療科目なので膝を診るのは膝痛がある患者さんの膝だけです。膝痛のある膝だけ診ていけば膝に変形がある例が圧倒的に多いのは当たり前のことです。だからお医者さんが「変形があるから痛む」と思ってしまわれるのも無理もないはなしです。でも、実際には違います。変形があっても痛んだことない方や一時痛んでいたが今は痛まないという方もかなりの率でおられるのです。このことから判るのは
膝(関節)の痛みは変形があっても必ずしも痛むとは限らないが変形のある膝(関節)は痛みを発生しやすい。
実は人間のからだ(骨)は石ころではないので変形(変化)するのが当たり前です。変形と言うと聞こえが悪いですがこれも「自動調整機能」のひとつです。変形するにも色々あって「自動調整機能」が正常に働けば元には戻れないが今の状態で一番良い状態を作るために変形していくのです。これをうまく導き出せば変形していても痛みのない状態にもっていくことが可能です。うまくすれば手術を先延ばしにできたりしなくて済むようになるかもしれません。
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