running

「もういい歳してるんだから転んだらお終いよ!用心して歩いてね!走ったりしないでね!」

とご家族から言われた経験のある高齢者は少なからず多いと思います。
でも私の考えではこれは間違いだと思っています。

私の治療室では患者さんに「10mでも良いからあなたが無理せず走れる距離で良いから常日頃走ることを忘れないでくださいね!」とお願いしています。

私が高齢者の方にこうお願いするには根拠があります。

人間は歩いていれば偶に躓くことがあります。もちろん高齢者の場合はその頻度が高くなります。躓くだけならまだ大丈夫ですが転倒してしまうと高齢者の場合大怪我になることもあるので高齢者のお身内の方たちはとても心配されます。それで転倒することを心配して「走っちゃダメ!」と言われるのですが用心していても躓く時は躓きます。部屋で畳の縁で躓くことだってあります。

確かに走っていて躓いたら大怪我になる可能性は更に大きくなりますから「走っちゃダメ!」だと言いたくなる気持ちはわかります。

でも私が知る限りでは高齢者の転倒による怪我は走っている時よりも歩いている時の方が圧倒的に多いと思います。中には大腿骨骨折などのような大怪我になることもあります。

人間は二足歩行なので躓いたら下手をすれば転んでしまうのですが特別な場合を除いて躓く時は左右どちらか一方のつま先が引っかかって躓きます。だからもし引っかかっていないもう一方の足が体勢が崩れないように素早く反応すれば「オットット!」だけで済む筈なのです。

ところが日常早い動きをしなくなってしまっている人はこういうとっさの動きが苦手になっています。頭では分かっていても体が動きません。結局、大きく体勢を崩して転倒してしまって大怪我をしてしまうことにもなりかねません。

つまり状況に応じて素早い動きを足ができれば転倒しなかったかもしれないのにです。

さて、下肢の早い動きと言えば一番簡単な動きは走ることです。「オットット!」の動きも走っている時の動きとよく似ているので日ごろ走るような素早い動きをしている人は高齢者でもそう簡単に転倒までにはなりません。

もちろん、走るときの転倒の危険もありますが意識的に走っている時は案外転倒しないものです。転倒は無我夢中になってしまったりついうっかりしている時で意識していて転ぶことは少ないと思います。これは走っていても歩いていても同じようです。

個人差があるのでその方の体力に合わせてメニューを決める必要がありますが、高齢者の転倒予防の為の走りであれば人によっては10mでも十分ではないかなと思います。つまり、速筋を鍛えるのには毎日数秒あればよいというのと同じ理屈が成り立つのではないかと思います。

足の速い動きを維持するためには走るという行為が必要だとしても、それには怪我をするかもしれないというリスクがあります。しかし怪我を恐れるあまり、早い動きを自制してばかりいると逆に思うような動きができなくなってしまい怪我のリスクが出てくるという矛盾があります。

どちらもリスクには違いありませんがどちらのリスクがまだ良いかと問われたら、私なら「高齢になっても走る」方のリスクを選びたいと思います。何故ならそうすることによって活力のある動きを得られるというメリットに強く期待するからです。

因みに、いくつになっても躰は鍛えれば結果がついてきます。高齢者であっても運動能力は鍛え方次第で相当維持することができます。以下はその証明です。

NHK クローズアップ現代 ”スーパー高齢者のヒミツ”